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第214話 「所持金八十九円」

金が無い。
 *
気が付くと所持金が千円になっていた。僕はこれからこの千円を有意義に使いたい。
とりあえず作戦を練る。まずは音楽だ。
 *
ツタヤでCDを2枚借りる。千円あれば3枚借りれるが、音楽だけでは有意義とはいえない。
借りたのはルルティアのR°と KORNの4枚目Follow The Leader。どういう組み合わせだろう。ふと苦笑い。
ルルティアのロスト バタフライという曲がずっと気になってたのだが、やっぱり良いかも知れない。切ない。
 *
残り四百円。
 *
気が付くと所持金が四百円になっていた。僕はこれからこの四百円を有意義に使いたい。
とりあえず作戦を練る。ツタヤまでの往復で腹が減った。
食事か?しかし所持金四百円。僕はこれからこの四百円を有意義に使いたい。
・・・四百円?
・・・銭湯?
 *
有意義だ。非常に有意義な選択肢だ。けれど、空腹時に風呂に入るのはいただけない。きっと気持ち悪くなって青ざめて倒れるのが関の山だ。するとやはり食事か・・・。
僕はとりあえず手当たり次第引出しを開けてみる事にした。こんな時のために小銭を溜め込んでおくセコイ人間とはまさしく僕のことだ。
 *
奇跡の三百円。
神様、ありがとう。
 *
残り七百円。僕はこれからこの七百円を有意義に使いたい。
有意義な食事。腹いっぱい。たらふくごはん・・・。おかわり自由。めしや丼。
めしや丼直行。から揚げ定食。ご飯やけ食い。おかわり2杯。
・・・有意義・・・というより、気持ち悪い。やはり銭湯が正解だったか。
 *
残金八十九円。
!!!しまった。家に飲み物が何も無い。水分を絶たれたら死活問題である。
shit!
僕はとりあえず手当たり次第引出しを開けてみる事にした。

第213話 「純粋な気持ちと踏みにじられた気持ち」

寝付けない夜明け。
何とか仕事を片付けて家に帰るも、眠る事ができない。
鉛色に鈍く光るロフトベッドのパイプを端から端まで眺め、目前に迫る天井の壁紙の継ぎ目を数えて過ごす。
 *
天国と地獄か。
でも僕はオルフェでもなければアリステでもない。強いて言えば世論。ちがう。世論は僕の中に存在するものの一部に過ぎない。大体神もあんなだから、笑うしかない。ふざけてる、ふざけ過ぎている。
 *
the goo goo dolls の HERE IS GONE が心地良く響く。このアルバムはアタリだ。間違いなく良い。佐川の兄ちゃんがダメ元で日曜日に事務所のドアを叩いた。それが運命の分かれ目だった。音楽は人のココロを変えるんだ。
 *
ワインのボトルを全て空けると、カラダが浮腫んだのだろうか、お気に入りのシルバーのリングが指から抜けない。
 *
カラダの力が抜けてゆく。僕は傷ついていた。その時僕は本当に涙が出そうだった。
純粋に欲する気持ちを否定された僕は、まるでそれを永遠に拒絶されたような気持ちだった。
 *
「ほしのこえ」やっと見れた。絶対的な実力、意欲の違い。確かに畑は違うけれど、何となく境遇は似ているし、やりたいと思っていることも多分似ている。とにかくあそこまでやれると言う事を示唆してくれたことの意義は大きい。腰の痛みも忘れて体育座りで25分、見入ってしまった。
 *
メールが溜まってきた。返信できない。
 *
リングが指から外れた。
音も無く床へと落ちた。

第212話 「切ない話と切なくない話」

徹夜明けの納豆朝食、ごはんおかわり2杯。今日で何日目だ?
 はぁ〜切ない。
前から凄く可愛い女性が歩いてきて、目の前で右折。入った先は風俗店。朝からご出勤ご苦労様です。
 はぁ〜切ない。
やってもやっても終わらない仕事。納期が迫っています。疲れているのでしょうか?見直すと所々に解読不明な暗号が!?
 はぁ〜切ない。
事務所の入り口の前にゴキブリが仰向けになって寝ていた。・・・いや、死んでいるのか?
 はぁ〜切ない。
昨日、サトちゃん(笑)と焼肉食べに行ったんだけど、サトちゃんも徹夜だとさ。
 はぁ〜切ない。
今日母の日だった。忘れてた。・・・お母さんありがとう。
 はぁ〜切ない。
少し寝たいよ。
 はぁ〜切ない。
誰も誉めてくれないので(そりゃ一人でやってりゃそーだわな)、自分で自分を誉めてみる。
 はぁ〜切ない。
日曜なのに事務所にCDを届に来てくれる佐川の兄ちゃん。君も仕事か。
 はぁ〜切ない。
そしてそれを受け取る僕。
 はぁ〜切ない。
「サッポロ一番 大盛り 旨塩焼そば」が激しく旨い。けれどフタに「高速湯切り口」書いてあるのはどうか?どのように高速なのか?ジェット湯切りへのささやかな反抗か?
 はぁ〜切ない。
「100キロ以上の球が打ち返せないバッティングセンター勤務の私です」byマー君。僕も打てないよ。
 はぁ〜切ない。
誠に不謹慎な話ではございますが、先日じょしこうせいのパンチラを目撃しました。ありがとうございました。
 はぁ〜切ない。
今気づきました。エンディングのアニメーション修正分のデータが全部どっかいっちゃいました。あきらめて作り直します・・・。
 はぁ〜切ない。
気が付きゃもう3日風呂に入ってないよ。ずっと同じ服だし・・・。
 はぁ〜切ない。
でも、なんだかんだ言っても、クライアントの喜びの声とか、出来上がったものを眺めて一人悦に入る瞬間、「あ〜がんばって良かったなぁ」って思うんだよなぁ・・・。
 はぁ〜切なくない。

<購入CD>
the goo goo dolls "GUTTER FLOWER"
THE STROKES "IS THIS IT"

第211話 「ちぐはぐ」

最近、本当に何も作ってない。
 *
見ず知らずの人から突然メールが来て、一緒に作品を作らないかと誘われた。僕はそのメールに込められた熱意みたいなものの大きさに惹かれ、とりあえず詳細を聞くことにした。
 *
努力と才能の話は良く議論される話題だ。
僕もそれについては僕なりの考えがあるが、とにかく今は何か作らないといけない。このままだと仕事に喰われるか、野垂れ死にするかどちらかだ。
 *
仕事は楽しい。今とても充実していると思う。
地味だけれど着実にレベルを上げてきているし、自分の役割が重要であるという自負もある。
仲間もがんばっているし、尊敬できる人もいる。
 *
けれど僕はそれだけでは生きていけない。それだけに生きてはいけない。
働くためだけに生まれてきたのではないのだ。
今やっている事を続けているだけでは自分の、そして会社の夢の実現に近づけない気がする。
 *
クライアントという存在を無視して自由に何かを作ること。それが一番楽しいと今までずっと思ってきた。けれど近頃の僕は自由に何かを作ることに苦痛さえ感じる。少ない時間を有効に使おうと思えば思うほど、何もできない。好きな人の前で素直になれない僕がいるように、好きなはずのモノを前にして何もできずにいる僕がいる。
 *
とにかく時間が取れなくて、申し訳ないけれどお断りさせていただく事にした。やろうとしていることにはとても興味があるし、志も高いのできっと良い物ができると思うのだけれど、やはり僕が足を引っ張る事になるだろうから。
 *
過去にもそんなことがあった記憶がある。
ある人と共同で作ることになって、アイデアを一生懸命出して、これはいけるという自信があったのに、いざ制作が始まってみると僕は忙しくて全然作れず。結局その人がほとんど作った。そして見事賞を取った。
彼の実力は明らかに高かった。今になってみれば逆に僕が入らなくて良かったのかもしれないとも思う。
 *
こんなことを考えるのは時期尚早だろうか。土台を作らなければ何もできないのは分っているのだけれど。焦りだけが募るのは案外厄介だ。
 *
残り少ない連休。実家に帰ることにする。
切りすぎた髪の毛が気になって仕方が無い。


第210話 「決別」

社会貢献ってなんだろう。
 *
いかにも田舎から出てきました。という風貌の小柄なおじいちゃんが座っていた。
右手にしっかりと握られた大きなJRの切符には、「新潟−荻窪」と書かれている。
新潟からわざわざ息子にでも会いに来たのだろうか。生まれたばかりの孫の顔でも見に来たのだろうか。
深く刻まれた沢山の皺は彼の人生を象徴するかのように穏やかで優しい雰囲気がした。
 *
さっきからどうも落ち着きが無い。
どうやらこの電車で合っているのか自信がなくなってきたのだろう。
久しぶりの東京。知らない街、知らない電車。不安になって当たり前だ。
遂に我慢しきれず席を立つおじいちゃん。立ってその場で路線図を眺める。しばらく眺めるがどうやらよく見えないらしい。手すりにつかまったまま、半歩進み、さらに眺める。
 *
そこに奴が入ってきた。
年は僕より若い感じで多分20代前半。髪の毛がなんか変な感じで。まぁ僕も人のことを言えないのだが。とにかく奴はそのおじいちゃんの横をすり抜けるように座席に腰掛ける。
 *
僕は腹が立った。
激しく腹が立った。
路線図を見終わったおじいちゃんは自分の戻る席が無く、その場に立っている。表情は変わらない。年輪の如く深く刻まれた皺の奥に小さく光る瞳は、やはり穏やかで優しい。
 *
次の駅についた。
奴が席を立った。
そしてまたおじいちゃんは席につく。
僕は奴を見ながら心の中で「死ね」と何度も言った。何度も何度も「死ね」と言った。
僕は暗い奴だと思った。
 *
その日、僕は髪の毛をこれまでに無く短く整え、金髪だった毛を真っ黒に染め直した。
何も変わらない。けれど新しい自分が始まる。


第209話 「楽天的」

最近すっかりここに書くことも少なくなった。
忙しいと言えば忙しいし、そうでないと言えばそうでもない。
多分僕は人より腰が重いか、もしくはもの凄くやる気の無いタイプの人種なのだろうと思う。
なんだか気付けば、仕事しかしてなくて、それ以外、何もしていなくて、馬鹿らしく思えてきた。
 *
何のために働くか、とか、何で生きているのか、とか考え始めたら、それは危険な兆候だ。
ネガティブな思考はどんどん深みを増し、鬱状態が始まる。
だから今日は仕事をしない。
 *
鬱なんて書くと病気みたいで聞こえは良いが、僕はいたって正常で、ただ落ち込んでいるだけだ。
腰が痛くて不快だけれど、以前のような不安や焦りは無くなった。と、同時に無くなってしまったものもいくつかあって、それを取り戻す方法を一生懸命考えている。
それらは全て自分の中にあるはず。確かに自分の中にあったのだけれど、どうしたのだろうか。全く持って見つからない。
 *
MONGOL800を聞いたのだが、残念ながら僕にはその良さはあまり伝わってこなかった。悪くは無いとは思うのだけれど。
僕は基本的に売れているものは大抵好きになるし、感覚も世間一般とそうそうかけ離れているとは思わないけれど、今回は好きになれなかった。BRAHMANの方がカッコ良くていいなぁ。と思った。
CDと言えば、最近CDを買うのを控えている。なぜならお金が無いから。
笑っちゃうくらいお金ないです。無くなっちゃいました。全然貯金ないです。お金持ちになりたいです。
でも音楽が無いと生活に困るので、レンタルCDでなんとかしのいでいる。先週は20枚借りた。
・・・。それって節約になっているのだろうか・・・。
まぁいいや。
 *
お金持ちになりたい?
・・・お金持ちになる方法について真面目に考える時がある。僕の低レベルな頭脳と知識でそんな事を考えても答えが出るわけも無いのだが、それを考える事は人生を考える事の末端でもあるので、まぁ考える。
一発当てる?
・・・それもいいじゃない。当たるまでやりますとも。
地道な努力?
・・・馬鹿馬鹿しい?そうとも言い切れない。
とりあえず、明るい未来を想像できるほど、僕は楽天的ではない。
けれど、前にも言った通り、いつか上手くいくような気がしている。
実はここに落とし穴があるらしく、どこかで読んだ本に、最近は「何となく上手く行くような気がしている人」が多くて、そんな人に限って「何にもしてない」のだと。
でも本当に何とかなると思っているんだ。
・・・。やっぱり僕は楽天的でアホだ。死ぬまで上手く行く夢でも観ているがいい。

<購入CD>
SUPERCAR "HIGHVISION"
どんなものでも君にかないやしない 岡村靖幸トリビュート
THE MUSIC "THE MUSIC EP"
※これ凄いです。2曲目"THE WALLS GET SMALLER"で鳥肌立っちまいました。


第208話 「気付き」

屁理屈ばかり並べて、貧乏人や病人を続けるのは最悪です。

深夜。作業の合間のネットサーフィン。ふとそんな誰かの書き込みを見て、身が引き締まる。
 *
ふと気になってトイレの掃除をはじめた。結構前から気付いていたのだけれど、そこの埃がふき取られる気配は全く無かったので拭き取ってみる。意外に楽しい。
拭き取ってみると結構な埃の量だった。僕は放置されていた時間を想像しながら、「気付く」ということについて考え始めた。
 *
ここで言う「気付く」とはただの几帳面とか、神経質といった類の上を行く「気付き」のことだ。
世の中の小さな変化にも敏感に反応し、さらにそれが自分にとって必要か不必要か。それに気付くこと。
ただ気付いただけじゃ駄目なんだ。その変化が何なのか、その先に潜むモノのことにまで気付けるかどうか。そんな「気付き」に僕はとても心惹かれる。
 *
気付けない人は不幸だ。
実はすぐそばに、隠れてもいやしないのに気付けない。そんなことが僕にもたくさんあったに違いない。どうやって気付くか。これはとても難しい。もしかしたら「気付き」は一種の才能なのかもしれない。けれど誰でも気付きの力はあるはずだ。それを上手く引き出せないだけに違いない。
 *
今気付いた事。
こうやって作業していて、デザインしている時間は意外に少ないということ。
単純作業やルーティンワークは時間をお金に替えて生活したいと考えている人がやる仕事か。でも僕が僕のデザインだけをお金に替えて生きていこうとしたら、今の生活の半分の水準で生きていく事になるだろう。身に付けた技術や経験、時間などを切り売りしてお金に替える事は立派な労働だ。そもそも仕事に崇高な理想を掲げて生きるにはまだまだ早すぎる。僕が出来上がっていない。
ちなみにこれは「気付き」ではない。気が付いただけだ。
 *
屁理屈の多い人にはなりたくない。でも屁理屈の多い人になってる。その方が楽だからだ。
周りからは良く見られたいし、メンドクサイ事は背負いたくないし、プライドをキズつけたくないし、楽に生きたい。
他人を批判して評価を下げれば自分の評価は上がったかのように見える。とても楽な方法だ。他人の失敗に気付けばいいのだ。そんなもの腹黒く生きていればとても簡単に気付ける。
でもこれは「気付き」ではない。本当の「気付き」は自分を上にあげる方法に気付く事だ。でもきっとそれは努力することだったり、我慢する事だったり、辛い思いをする事だったりするから、折角気付いてもメンドクサイから忘れてしまうのだ。
 *
とここまで考えて、こんな所でで油を売ってないで僕の仕事をしっかりこなすべきことに気付いた。

<購入CD>
くるり "World Is Mine"
La Cryma Christi "& U"
鬼束ちひろ "This Armor"
松本孝弘 "華"
松本孝弘 "西辺来龍dragon From The West"
BUMP OF CHICKEN "jupiter"

第207話 「自己防衛本能」

今日も少しだけ怒りを顕わにしようか。
 *
人の気持ちを踏みにじるような事を平気で言えるのは、ある意味強さの現れであり、同時に神経が麻痺してしまったことの証明でもある。そして悲しいかなこういった類の発言は言われた当人にしか痛みがわからないものだ。
 *
人は学習する。だから勿論痛みも学習し、その痛みに耐えうる強さと人を思いやる気持ちを身につける。
けれどどういうことだろうか。残念ながら自分が受ける痛みだけが強く残り、思いやりの気持ちはすぐに希薄になってしまう。
 *
「自己防衛本能」という言葉がある。この言葉を用いて説明するならば、この「自分への痛みだけが強く残る」という心の動きはとても自然で本能的な作用である。自分が生き残る事こそが最も優先され、痛みに耐えうる力をつける。至極自然だ。
自分が生き残ることができれば本能は満足するので、そのあとに理性とか何とかが働いて人を思いやったりもできる。その思いやりでさえも、見返りや見栄や虚勢などが交じり合って濁ってしまいがちだ。人が人である以上、本能に逆らうことはできない。
・・・本能と和解?
・・・和解という言葉にはもう飽きた。
 *
自分の事を考えればよく分る。傷跡、憎しみばかりが大きく残り、人から受けた優しささえも素直に受け止められずに疑ってしまうのだ。自己防衛というよりも疑心暗鬼に近いか。
信じられない人は可哀想。すぐに信じてしまう人は馬鹿正直。人間匙加減が難しい。
 *
2ヶ月に一度、髪の毛を染めに行く。ブリーチ用の液体は地肌にピリピリ染みて目が醒める。カットのあとに軽くマッサージしてもらったら、ビックリするくらい右目が見えるようになった気がした。一瞬だけ。
 *
havenの"between the senses"がヘビーローテーション中である。UK期待の大型新人なんて触れ込みは伊達じゃないのかもしれない。聞き始めた直後はなんだかそのまま流れて終り。って印象があったのだけれど、聞き込むうちにメランコリックな雰囲気と僕の心がシンクロしてきて、心地良く、それでいて力強くグイグイ引っ張ってくれる感じだ。
 *
人を傷つけずに生きてゆくことは難しい。誰も傷つかずに生きてゆけたらと思うのは優しさというよりもむしろ弱さだ。
大丈夫。人はもっと強くなれる。
僕ももっと強くなる。

最近購入のCD: haven "between the senses" SOFTBALL "Lamp"

第206話 「ハイエナ」

蹴り飛ばしたい衝動に駆られながらも、素知らぬ顔で通り過ぎる。
 *
ある資源ごみの日。溜まっていた書籍の束を家の前に出していたときの事だ。
いかにも怪しげな男が目を光らせてこちらへ向かってくる。僕は一瞬でハイエナだと感じた。男は特製の自転車(荷台に板を取り付けてたくさんの獲物を積めるように改造してある)にまたがり、ゆっくりとこちらの様子を窺っている。僕が大量の書籍の束を出し始めたのを見て、近寄ってくる。
 *
リサイクルが声高に叫ばれている昨今、再利用することはとても素晴らしいことだと思うが、人の出したゴミを漁るのはどうかと思うのだ。駅でもゴミ箱の、あの狭い口に腕を突っ込んで雑誌を取り出している輩。ああいうのが増えているのは果たしてリサイクルと言えようか。僕には風紀を乱しているだけにしか見えない。大体恥ずかしくないのか。
 *
ハイエナは道の端に自転車を止めると、なにやら荷解きをはじめた。恐らく時間稼ぎだろう。僕がいなくなるのを見計らって獲物を物色しようという魂胆だ。だが僕も負けてはいられない。まだ1/3残っている。ここはひとつわざとゆっくり運んで相手の出方を見ようじゃないか。
 *
「あの、本もらっても良いですか?」
あっけなく仕掛けてきたのはハイエナの方だった。僕は長期戦覚悟で無言のバトルを楽しむはずだった。なのに敵はあっさりとしたものだ。律儀というかあつかましいというか、常識が無いような礼儀正しいような。
「あ、はい。」
僕は予想だにしなかった展開に思わず相手のペースに乗せられてしまった。しまったと思ったがもう遅い。僕は自ら許可を出したのだ。ハイエナがエサを手にする事を認めたのだ。
 *
猫背の背中を目一杯丸くして屈みこみ、慣れた手つきで紐を解いている。僕は腹が立った。その猫背の背骨の右側少し上の方を踵で目一杯蹴りつけたかった。けれど僕は認めたのだ。彼が本を手にする事を。僕は馬鹿馬鹿しくなってすぐにその場を離れた。とにかく早く済ませて消えて欲しかった。僕の私物を一つ一つ丹念に物色されていると思うと鳥肌が立った。
 *
部屋で呆然と鳥肌が引くのを待っていたら、今度は彼がどの本を選んでゆくのか興味が湧いてきた。僕は覗き屋よろしく窓の隙間から外の様子を窺う。どうやら仕分けが完了したらしい。自慢の(かどうかは知らないが)荷台に僕の本が積んである。僕が捨てたものは殆どが分厚いコンピュータの専門書だ。それも古いものばかり。ハイエナはDirectorやAfterEffectsの解説書を持って帰ってどうするつもりなのだろうか。売るにしても大した金額にはならないと思う。買ったときはいい値段だったが、古いコンピュータ書籍には価値なんて無い。全くざまぁみろなのであるが、僕のプライベートを覗かれた気がして気分が悪い。最悪だ。僕が奴から金を取りたいくらいだ。
 *
気分の悪いまま駅までの道を歩く。
ふと細い路地を見るとハイエナが次の餌場で仕分け中だった。
ヤルなら今か?いやいや、あくまでそれは僕の妄想だ。
それにしても見事な手つきで紐を解きやがる。きっと奴はプロだ。
何があってもそんなプロにはなりたくはない。というか、ハイエナにはなりたくない。勿論リサイクルは歓迎だ。人のプライバシーの範囲外においては。

第205話 「もし何も出てこなかったら、そのとき僕はもうここにいないだろう」

明らかに顔が引き攣っている。
僕は今、間違いなく動揺している。
ポーカーフェイスは苦手だと痛感する。
 *
体がだるい。目の奥に妙な違和感があって、さっきから目薬を何度も点けている。
ハードな週末。
40時間起きて、8時間寝て、また40時間起きて・・・。体は2日のつもりでいるのに現実は4日経っていて、ひ弱な体に鞭打って肉体労働なんかもしたりすると体中が悲鳴をあげているのが手にとるようにわかる。
御誂え向きの雨は中途半端にシトシトとゆっくり降り続き、泣いているのか笑っているのかも分らない。
 *
自分の今後についてアドバイスをもらう。でもそれは随分前から僕自身十分理解していて考えてはまとまらずにとりとめも無く時間が過ぎていたのだが、それを人からズバリ指摘されるととても応える。
それでもそうやって指摘してくれる人がいることはとてもありがたい。僕は人に尻を叩かれないとなかなか動かないタイプなのだ。
そしてまた考える事にする。この繰り返しから何が出てくるのか。僕にも分らない。もし何も出てこなかったら、そのとき僕はもうここにはいないだろう。
 *
軽いホームシックに近い症状に見舞われた。
深夜雑然とした部屋の真中に立ち竦み、心細さと居心地の悪さでしばらく動く事が出来なかった。
そこから僕を救ったのはやっぱり音楽だった。CD一枚で僕は力を得た。音楽の力を強く感じた。僕が欲しいのはこれなんだ。不安定でコロコロと移り変わる人のココロをそっと包み込む音。この力が欲しい。この力で人のココロに響かせたいのだ。
 *
<購入CD>
Smooth Ace "FOR TWO-PIECE"
MEJA "my best"
Pink "Missundaztood"
GREEN DAY "International Superhits"
Jewel "This Way"
Janne Da Arc "GAIA"

第204話 「人柄と2種類の”凄い”モノ」

あんたは本当に運がいい。
こんないいのと出会えたのはあんたの人柄だね。
なんたってあんたは人柄がいい。
 *
狭い店の奥からやや年老いた店主が大きな声で言う。
ありがとうございます・・・。
僕は少し照れた風にペコリと頭を下げる。
それにしても気持ちの良いお世辞だ。こんなに気持ちの良いお世辞をもらったのは久しぶりかもしれない。
 *
人柄・・・か。
僕はA3用紙に目一杯敷き詰められた記入欄を上から順に埋めながら、自分の人柄について考えていた。
そもそも5分くらいのお喋りで他人の人柄がわかるものなのだろうか?確かに店主の年齢は僕の倍以上あるだろうから、人柄を見抜く心眼を持っている可能性も十分有り得る。けれど僕だってこの歳にもなれば、愛想笑いの一つ位持ち合わせているし、人に媚を売ることだって造作も無いことだ。少しだけ我慢して、少しだけ気を張ればいいだけの話である。
・・・記入できない部分でペンが止まる。
・・・そこを空欄のままにして次の項目へ進む。
そう思うとやはりあれは店主の目一杯のお世辞だったのだなと少しだけがっかりする。というよりも素直に受け取れない自分の捻くれ具合と、真に受けて喜んでいる自分と、その馬鹿馬鹿しさとが鬩ぎあっている状態が切ない。
それから何度も頭を下げてその場を後にした。
 *
世の中には凄い人がたくさんいる。今日も凄いのを見た。昨日も見た。その前の日も見た。毎日見ている。凄いのを見る時、僕は大抵2種類の凄いを感じる。
type_a 凄いセンスだ。
type_b 凄い根性だ。
どっちも同じくらい凄い事なのだけれど、僕には今、どうしようもなくこの2つが足りない気がして、ダラダラと凄いのを見て過ごしている。
 *
そうだ、洗濯しないと。溜まってるんだった。
迷惑メールに書かれていた、「溜まってる」の文字でピンと来た。それにしても迷惑メール、その名の通り迷惑だ。けれど、僕は例の「凄い」が足りていないので、ドメイン名からオーナーの情報を引っ張り出して見たりして遊んでいたりする。結構同じ人が所有してたりして、よくもまぁそんなにって感じだが、そんなことどうでもいい。勝手にしてくれ。僕はひたすら削除するだけだ。さるでも出来る。
 *
いやいや、早い者勝ちっすよ〜。
そうか、早い者勝ちのなのか。なんだか他人のものを横取りしてしまったみたいで、少しだけ気が咎めたのだが、そんなこともどうでもいいか。店が良いって言うんだからきっと良いんだ。僕の領域ではない。
 *
あんたは本当に運がいい。
そうか?僕は運がいいのか?

第203話 「小綺麗にまとまっていることの怖さ」

それはまるで、僕の能力の限界・センスの限界を指摘されているようで、身も凍る思いだった。
 *
遅く寝て、遅く起きる事に慣れてしまった近頃の僕は、夜布団に入ってもなかなか寝付けない。
「明日こそは早く起きよう」と布団に入ってみても、時報を告げる腕時計の「ピッ」という小気味良い音を何回か聞く羽目になる。僕はその電子音の小気味良さに呪いの言葉を吐く。
 *
見た目は綺麗でそれっぽくて当り障り無い。そういう小手先だけのモノはやはり人の心には届かない。僕は何が悪いのかと自問自答する。そして気付く。

「僕はこれを少しも気に入っていない。」

自分が愛せもしないのに、他人が愛せるわけも無い。僕はまだ納得のいくものを作れずにいるのに、他人が容認すればそれが完成だと思うようになっていた。仕事とはそういうものだと思っていた。
 *
僕はまた理想論を述べようとしている。馬鹿馬鹿しい。自分の能力が足りない事をカッコよく理由付けしてそれっぽく誤魔化そうとしているだけだ。もっと真摯に。もっともっと真摯に。
 *
もう眠りたい。
僕は情けない男だと思った。
どうせ眠れやしないのだろう。
電子音に呪いの言葉を吐きながら。
もう眠らせて。
今の僕には足りないものがある。

第202話 「凄く微妙な温度」

ようやく風邪も収まってきた模様。もう少しだ。
それにしても一週間とは本当に早いもので、気を抜くと本当に何もせずに一日が終わってしまうから怖い。
 *
深夜のファミレスで電車が動き出すのを待つ怠惰な時間。これといってする事も無く、同じような輩が大量に屯している微妙な温度の中で、僕は左斜め前方の人間を観察して過ごした。
電車が動き出す頃、テーブルが3つほど空いたあたりで僕も店を出た。
山手線の始発が信じられないほど低速で動いている。運転手は寝ているのかもしれない。
扉が開いても誰も降りない。誰も乗らない。というか、人がいない。
 *
前回の続き。何をしようかと考えている話。まだ考え中。
全然関係ないけれど、CGアイドルコンテストのトレカ、たくさん頂いたので機会を見ては配っているのだけれど、普通の人があれをもらっても別にうれしくないよなぁと思った。少なくとも僕は何がしかのトレカというものを買った事は無いし、欲しいと思ったこともない。ああいうものは好きな人にだけ価値があるような、いやいや、でも名刺の代わりだと思えば別にいいか。とか。とはいえ今回のトレカは僕自身にとって非常に価値のあるものであることには違いない。もうこんなことあるかわからないし。宝物ですな。
話を戻そう。
考えているのだけれど、きっと考えがまとまっても行動に移せないような気もしなくも無いし、そもそも、年々やる気が減退しているような気がするのは何故だろうと。実はこれが最も恐ろしい事な訳で、気をつけないと本当にダメになってしまいそうなのである。
そもそもこの文章が良くない。
 *
当り障りの無い方向へ話の矛先を変える。
ケミカル・ブラザーズのニューアルバムを買った。ありきたりですが、ギャラクシーバウンスとスターギターが好きで。嗚呼それ以上何もかけなかったり。
 *
1月をちょっとダラダラと過ごしすぎたかもしれない。明日からちゃんとできるかな。2月から頑張ろうとか言っておいた方が優しいか。
凄く微妙な温度。深夜のファミレスで電車が動き出すのを待つ怠惰な時間。これといってする事も無く、同じような輩が大量に屯している微妙な温度の中で、左斜め前方の人間を観察して過ごしている感じととても良く似ている。

第201話 「何も考えてない」

もの凄く久しぶりに風邪をひいてしまったらしい。こいつが思いのほか手強く、2日経過したが一向に回復の兆しが見えない。本当に久しぶりなので、まぁ、たまには良いかとそれに甘んじてみても、この不快感はただでさえ気が重いこの状況をさらに悪化させる。
 *
先週は思うように事が運ばず、新年早々僕らしいスタートで、僕としては割と気に入っている。僕は美味しいものは一番最後に、楽しみは一番最後に。という主義なので、前半、特に出だしが悪いと後半絶対良くなると信じて疑わないため、これからが楽しみなのである。人間関係も同じで、なんだか素直になれない事が多いが、それもこれからということで。
 *
「俺はもうギヤを換える必要もない。トラックとはちがう」
白い犬とワルツを テリー・ケイ
僕の周りでこの本を知っている人が何人かいて、みんなそろってつまらないと言っていたが、僕は気に入っている。主人公が妻との思い出の場所で白い犬と共に若かりし日々を回想するシーンなど、情景が頭の中一杯に広がって胸が一杯になった。とてもイマジネーションを掻き立てる本だと思う。
 *
実はまだ考えがまとまっていない。
一昨年末から考えていることがあって、それにとりかかりたい気持ちもあるのだが、今ひとつ決め手に欠ける感じである。
近頃では手を動かす時間より考える時間の方が多くなってきた。これで答えや画期的なアイデアが生まれるのであれば何も問題ないのであるが、むしろその逆で、考えれば考えるほど壁にぶち当たるといった状況である。ちなみに今日は「焦る」ということについて考えてみた。「自分は今焦っている」と仮定して、そこから何かしらの答えを導こうというもの。と書くと難しく聞こえるが、ある意味これは「何も考えていない」と相通じるものさえある。要するにダラダラと怠惰に過ごしているだけなのだ。