目が覚めると外は雪だった。
僕はベッドから飛び出せない気持ちと空腹との鬩ぎ合いに苛まれながら、ゆっくりと体を起こす。
コンビニまで3分。僕はカメラを手にする。

雨とも雪とも取れぬ冷たいものを切り抜きながら、3分だけの自由を満喫する。
けれども、気がつけば僕のカメラは、
その雨とも雪とも取れぬ冷たいものと、凍えるような横風のせいでびしょ濡れである。

その数時間前、僕は夢を見ていた。
僕は今にも転覆しそうな小船に乗り、写真を撮っている。
少しでも気を抜くとバランスを崩し、転覆しそうになる。
僕は両膝を踏ん張り、バランスを取りながらカメラを構える。

ふとその湖上に架かる壮大な橋に気を取られた刹那、僕は見事バランスを崩す。
転覆を避けるべく広げた両腕。
バランスを取るべく、とっさに下ろした右手にはカメラ。
ちょうどカメラの上半分が湖面に吸い込まれる。
僕はしまった!と思い右手を上げる。
転覆こそ免れたものの、右手のカメラからは雫が滴り落ちている。
それでも君は本当に健気で、文句ひとつ言わず、その使命を全うする。
やがて君は動かなくなる。

まるであの小船の上にいるような感覚だ。
今にも船は転覆しそうなのだ。
それでも僕はカメラを構える。
レンズはびしょ濡れでオートフォーカスは既にその機能を果たしていない。
僕はそれでも狂ったようにレリーズを繰り替えす。
レンズは音もなく∞と0.38mとを往復し、沈黙を繰り返す。

凍える手でマニュアルモードへのそれを弾く。
ピントリングを回してみてもファインダーからの見た目は変わらない。
諦めてシャッターを強く押す。

これが今なのだ。
今の僕なのだ。